第三章

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 「……?」  「我が真名を、お聞きください」  雪は目を見開く。  「私は日本の神。複数の名で呼ばれましたが、真名を、大国主神と申します」   「オオクニヌシノカミ…」  聞いたことの無い名前に、少し拍子抜けする。  「…知らない」  静かに笑う気配がある。  「因幡の白兎の話を?」  「うさぎ?」  「神話。童話にもなってたはず」  「うーん…」  譲葉の話し方がいつものそれに戻ったので、雪は表情を柔らかくする。  「ワニを騙して皮を剥がれた兎を、旅の途中の好青年が助けてあげる」  「知ってる!」  雪はぱんと手を打った。  「その前に通った男たちは嘘を教えて兎を苦しめたけど、その人は助けた」  「その男達は私の兄だ。私は、兄達が因幡のヤカミヒメのもとに求婚に出かける共を命じられて、同行していた」  私、という一人称を譲葉が使うのは珍しい。前世の名残だろうか。  彼女にしては珍しく、声は皮肉を帯びていた。  「彼らのせいで私は、二度死んだ」  「二度、死んだ?」  「そのまんまの意味」  彼女は肩をすくめる。  「助けてやった兎の呪力で、共の私がヤカミヒメの愛を得てしまった。それで私は兄らに命を狙われ、二度死んで、二度生き返った」
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