第三章

44/55
前へ
/449ページ
次へ
 何かに備えて身構えていたのだが、予想に反して考えていたような変化、異変は、何一つ起こらなかった。  「譲葉……?」  一つ間を置いて、彼女は長く息を吐いた。  「ごめん。何でもないの」  唖然とする。  「……え、ええー?」  「嘘。何でもなくない」  雪は今度こそ落胆した。  「もういいよ…」  「ごめん、ごめん」  もう、と雪は呟く。手に持った剣は重いし、今更ながら、さぼった授業も気になり始めた。  「何でもなくないなら、何なの」  雪はいらいらと譲葉をねめつけた。  「王子様みたいだった」  おとぎ話の、と言い添えると、妙に真面目に言い返す。  「王子に知り合いはいないけど、王様なら実物を知ってる」  目を見開く雪に、くすりと笑って続ける。  「今度紹介するけど、余計な理想は持たない方がいい」  そんな意味深なことを言って、譲葉はきらきらと雪を見上げた。
/449ページ

最初のコメントを投稿しよう!

789人が本棚に入れています
本棚に追加