789人が本棚に入れています
本棚に追加
何かに備えて身構えていたのだが、予想に反して考えていたような変化、異変は、何一つ起こらなかった。
「譲葉……?」
一つ間を置いて、彼女は長く息を吐いた。
「ごめん。何でもないの」
唖然とする。
「……え、ええー?」
「嘘。何でもなくない」
雪は今度こそ落胆した。
「もういいよ…」
「ごめん、ごめん」
もう、と雪は呟く。手に持った剣は重いし、今更ながら、さぼった授業も気になり始めた。
「何でもなくないなら、何なの」
雪はいらいらと譲葉をねめつけた。
「王子様みたいだった」
おとぎ話の、と言い添えると、妙に真面目に言い返す。
「王子に知り合いはいないけど、王様なら実物を知ってる」
目を見開く雪に、くすりと笑って続ける。
「今度紹介するけど、余計な理想は持たない方がいい」
そんな意味深なことを言って、譲葉はきらきらと雪を見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!