第三章

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 「別に、拗ねてなんか」  「―…まあ、拗ねてるのは、そこに隠れてる誰かさんも一緒かな」  「……五月蠅いわね」  すぐ近くで声がして、雪は内心、飛び上がった。見上げた先の枝の影に、弥生がいて雪達を見ていた。それでも平然を装おうとしたのは、やはり拗ねていて、弱みを見せたくなかったからか。  「ずっと隠れてないで、話しかければ良かったのに。ひねくれ者め」  「馬鹿な事を言わないで」  「授業は終わったのかい」  「とうに」  弥生は、つんと鼻先を上に向けた。  「いつにもまして、不機嫌だな。うちが雪と契約したのが、そんなに嫌か」  「……別に」  譲葉は困ったように肩をすくめて雪を見た。それを、なによと見やって顔を背ける。背けたから、その後の譲葉の表情は分からなかった。  「何故雪にあれを」  雪は、はたと弥生を見る。  彼女は彫り込んだような深い皺を眉間に刻み、自分の手に持つ剣を睨むように見ていた。  「返しただけだ」  ちょっと気まずそうに笑って、譲葉が言う。  「聞いていたわ。だからって―…」  「弥生」  譲葉が反論を目線で押しとどめる。  「過保護にも程があるよ」  言われた弥生はむっつりと押し黙った。
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