第三章

51/55
789人が本棚に入れています
本棚に追加
/449ページ
 「まあ、何ですって?私が、我が儘?」  言うなり弥生は顔をしかめた。  「何を今更、わかりきったことを、と言いたいんだろう?弥生。その気持ちは、痛いほどわかるさ」  茶化すように譲葉が言う。妙に、空気が乾燥し始めた。パチッ、と視界のどこかで大きな静電気が起こった。  「ねえ」  と、雪は口を挟んだ。  「そろそろ、降りない?」  ここの生徒同士の諍いは、ろくなことにならない、と身にしみて分かっていた雪は、危険信号が点滅し始めたのを悟ってそう言った。  「授業、始まっちゃう」  初めこそ目を見開いていた二人だが、ちょっともたもたと顔を見合わせてから、雪に向かってはにかんだように笑った。  「気を使わせたみたいだ」  「ほんとね」  「ううん、そんなこと…」  頬を赤くさせて俯くと、それすらも愛おしいといいたげに二人は優しげに笑う。  「じゃ、いこうかね」  言いながら譲葉はかごに手を伸ばす。それは、四方に伸びる枝にひもをくくり、ちょうど胸程の高さに垂らしてある、木の蔦で編んだようなものだった。
/449ページ

最初のコメントを投稿しよう!