第三章

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 「…乗りたくない」  「あ、やっぱり?」  譲葉は笑った。  その時下から声がした。  「ゆーずー、やーよーいー、降りてきてー。雪の独り占めは許さないよー」  「太凰だわ」  秘密基地の中心の床をぶち抜いて伸びている一際太い枝、それに寄りかかりながら弥生は腕組みをした。  「ねーえぇー、十秒以内に―…」  「今行くよー!」  譲葉が軽く声を上げ、一瞬雪を振り返ったかと思うと、  「お先に」  と囁いて手を振った。その刹那、彼女は足場の無い場所…―空中へと身軽な動作で飛び出した。  「―っだめ!」  一拍遅れて悲鳴を上げる。ここがどれだけの高さが、床の淵まで走って再確認する。目眩がするほど、高い。  「ゆずりっ…は…?」  すでに彼女は地に足をつけ、太凰に何やら文句を言われているようだった。雪の声に気づいて顔を上げ、笑顔でもう一度手を振った。  「信じらんない」  安堵感からか、脱力感からか、乾いた笑いがこぼれる。  「今ので無事なの?」  「私たちもいくわよ」  そんな不吉な言葉を耳に拾った時には、華奢な腕に抱えられるようにして、雪もまた宙を舞っていた。
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