789人が本棚に入れています
本棚に追加
/449ページ
「…乗りたくない」
「あ、やっぱり?」
譲葉は笑った。
その時下から声がした。
「ゆーずー、やーよーいー、降りてきてー。雪の独り占めは許さないよー」
「太凰だわ」
秘密基地の中心の床をぶち抜いて伸びている一際太い枝、それに寄りかかりながら弥生は腕組みをした。
「ねーえぇー、十秒以内に―…」
「今行くよー!」
譲葉が軽く声を上げ、一瞬雪を振り返ったかと思うと、
「お先に」
と囁いて手を振った。その刹那、彼女は足場の無い場所…―空中へと身軽な動作で飛び出した。
「―っだめ!」
一拍遅れて悲鳴を上げる。ここがどれだけの高さが、床の淵まで走って再確認する。目眩がするほど、高い。
「ゆずりっ…は…?」
すでに彼女は地に足をつけ、太凰に何やら文句を言われているようだった。雪の声に気づいて顔を上げ、笑顔でもう一度手を振った。
「信じらんない」
安堵感からか、脱力感からか、乾いた笑いがこぼれる。
「今ので無事なの?」
「私たちもいくわよ」
そんな不吉な言葉を耳に拾った時には、華奢な腕に抱えられるようにして、雪もまた宙を舞っていた。
最初のコメントを投稿しよう!