第三章

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 もとい、落ちていた。  風圧で、目が開けられない。頬に当たる絹のような髪の感触で、自分を包み込むように抱いているのは弥生と分かった。  ―落ちたら死ぬ。  ―でも弥生がいるし。  ―しかし、こんな高さで。  すべてが一瞬で頭を駆け巡り、やっと悲鳴をあげようかというとき、体に回された腕に力が入り、足首と膝に少し強めの衝撃がある。  「怖かったかしら?」  足裏にあるのは、地面。そう認識するまでに、数秒かかった。  「こわかった…」  オウム返しして、勢いよく上を見上げる。さすがは秘密基地と言ったところか、ここからは枝が邪魔をしてよく見えなかったが、大体の場所の検討はつく。  「…ゆず、お願いがあるの」  初めてあだなで呼んだので、それに関心を示してか譲葉は意表をつかれたような顔をした。  「いいよ、なに?」  「ブランコを作るくらいなら、先に階段を造って?」
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