第四章

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 それは、ひどく優しい玉響のおと。  そのどこまでも無の、白い世界の中で、珍しく『あの声』以外のおとがする。  その瞬間、カチン、と頭の中で何かが断ち切れる音がした。  これは、姉上の歌。  その懐かしい、本当に懐かしい歌を聴いた瞬間、これは姉上の歌だと確信した。  ―“雪”に姉などいないのに。  そう感じたのを最後に、雪の意識はさらに奥へと沈んでいった。  遠くから歌が聞こえた。  ―あぁ、姉上が歌ってらっしゃるのだ……。  ―…え?  雪はハッとする。  あたしに、姉さんなんかいない―…。  そして突如、幼い声がする。それだけで、全身が粟立った。  『あねうえーっ!』  その時、どこまでも続くようだった白い世界が、風に霞が散るように、隠していた世界を露わにした。
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