第四章

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 そこは、歴史の資料で見たような、寝殿づくりの建物に酷似していた。雪は、そんな建物の中庭に面する回廊に、ぽつんと立っている。朱塗りの手すりに手を置いて、周りをぐるりと見渡した。  ―どこだろうここは。  見たこともない場所なのに、胸が痛いほど懐かしい。  私はここを知っている―…。  『あねうえ、どこですか。わたしです。スサです』  高い声は子供のもの。その方に視線をやると、4つ、5つくらいの男の子が、うろうろと庭園を歩いていた。子供特有の細い首をめぐらせて、何かを探している。  彼は風邪を引いたという姉に、早咲きのスミレを持って、お見舞いにきたのだ。  雪は、その事を自分が知っていても、なんら不思議に思わなかった。それほど、その概念は自然に頭の中にあったのである。  (向こうだ、向こう。遣り水のところ…―)  雪の思いが届いたのか、否か、彼は雪の望んだ方へと歩き出す。  雪は、その後を追った。
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