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『あねうえ!』
雪のように降るのは李の花びら。真っ白な花びらが、あとからあとから散っていた。
踏むのが躊躇われるほど美しい。その、夢のような光景で。
『まあ、スサ。どうしたのです?』
歌うのを止めた女性を見た瞬間、心臓が大きくはねた。
―弥生?
滝のように流れるぬばたまの髪、けぶるまつげ、赤い唇。
『こんなに服を汚して…手も傷だらけではないの』
雪が踏むのを躊躇った花びらの上を、少年は怯むことなく女性のもとへ走る。
確かに、あの女性に触れたいと思うのは、あらがいがたい感情。世界の誰も、この衝動を止めることはできないだろうと思わせた。
少年は女性が座る木の下まで行くと、少し照れくさそうにはにかんで、握りしめた何かを差し出した。
『おかぜを召されたと聞いたから、おみまいに、スミレをつんで来たのです。あねうえは、スミレのはながお好きでしょう』
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