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「起きられる?君が運び込まれてから、1日たったよ」
雪は目を見開いた。
「そんなに…―」
声を出すと、何を言ってるのかも分からないほどしわがれた声が出た。
「っ―…」
にわかに赤くなる雪を見て、少年は屈託なく笑う。馬鹿にした風でも、慰める風でもなくて、それがなんだか心地よかった。
「なにか食べれる?うーん、水分をとった方がいいかな。お茶は飲める?水の方がいい?ポカリもあるけど…」
足下にある袋をベッドの上にまける。500ミリリットルのペットボトルがごとごと転がり落ちた。
「お好きな物をどーぞ」
「…ありがとう」
やはり声はがらがらだったが、彼はしっかり聞き取ってくれた。
「どういたしまして」
雪がお茶のボトルに手を伸ばしかけると、少年が横からそれをついと持ち上げた。
「………」
意地悪をされているのだと思い、声を上げようと腹に力を入れたが、彼は軽い力でキャップをひねり、机の上のマグカップに、とくとくとそれを注ぐ。鼻歌を歌いながら。
「ん?」
仕舞にはストローまでさして、雪の手元にあてがってくれた。
「……ありがとう」
…申し訳なさと有り難さで、雪は1人赤面した。
一口すする。味はよく分からなかったが、乾いた舌に冷たさが染み入る。
雪は、ほっと息をついた。
すると、
「――熱はどう?」
いきなり、少し筋張った男の子らしい腕が伸びる。とっさに身をすくめると、少年は照れたように笑った。
「ごめん。いいかな、さわっても」
なんとなく落ち着かない気分ではあったが、雪は縦に首をふる。
少年は柔らかく笑って、そっと雪の額に触れた。
「…ああ」
そっと手がはなれる。そよ風に頬をなでられたような、不思議な感覚がした。
「熱も下がったみたいだ」
彼はにこりと笑うと、今度はしゃがみ、また新しい袋を取り出した。
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