第二章

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 「お粥とか作れたら良かったんだけど、食べてさらに具合悪くされたら怒られちゃうから。食べたいの、ある?」  両手に袋を下げて笑う。ペットボトルと同様に中身はベッドの上に散らかった。  「…消化にいいものってよく分からなくて…」  袋の中身はほとんどお菓子だった。  困ったように笑って耳をかく仕草が、おかしい。  「もうすぐ夕飯の時間だから、大丈夫なようだったらつれてこいって言われてるんだ。どう?大丈夫そう?」  体はまだガチガチだったが、どうしたことか先程と比べると、この違いはどうだろう。  彼に触れられた額から、体中の悪いものを、吸い取られたような気分だった。  雪はうなずき、それから少年を見返す。  「うん。大丈夫」  少年は瞳を輝かせる。  「俺は本条真澄」  いたずらっ子のように、真澄は笑った。  「みんなは真澄って呼んでる」  「――あたし、雪。榊原雪」  「セツ、雪って書いて?」  「そう」  真澄は小さくうなずいてから、へえぇ、とつぶやいた。  「雪、か。かわいい名前だね」  雪は何度もまばたきした。  「―…え、何?」  真澄が首を傾げて雪の顔を覗きこんだ。  「や、すごいなと思っただけ」  ふっ、と笑いがこみ上げる。ここ2日間に出会った人々は、全員かなりの美人ぞろいで、全員、どこか普通の人とはかけ離れていた。  なんて人だろう。  こんなセリフを、こんな容姿で、こんなに違和感なく言ってのけるのは彼ぐらいだ。
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