789人が本棚に入れています
本棚に追加
/449ページ
「お粥とか作れたら良かったんだけど、食べてさらに具合悪くされたら怒られちゃうから。食べたいの、ある?」
両手に袋を下げて笑う。ペットボトルと同様に中身はベッドの上に散らかった。
「…消化にいいものってよく分からなくて…」
袋の中身はほとんどお菓子だった。
困ったように笑って耳をかく仕草が、おかしい。
「もうすぐ夕飯の時間だから、大丈夫なようだったらつれてこいって言われてるんだ。どう?大丈夫そう?」
体はまだガチガチだったが、どうしたことか先程と比べると、この違いはどうだろう。
彼に触れられた額から、体中の悪いものを、吸い取られたような気分だった。
雪はうなずき、それから少年を見返す。
「うん。大丈夫」
少年は瞳を輝かせる。
「俺は本条真澄」
いたずらっ子のように、真澄は笑った。
「みんなは真澄って呼んでる」
「――あたし、雪。榊原雪」
「セツ、雪って書いて?」
「そう」
真澄は小さくうなずいてから、へえぇ、とつぶやいた。
「雪、か。かわいい名前だね」
雪は何度もまばたきした。
「―…え、何?」
真澄が首を傾げて雪の顔を覗きこんだ。
「や、すごいなと思っただけ」
ふっ、と笑いがこみ上げる。ここ2日間に出会った人々は、全員かなりの美人ぞろいで、全員、どこか普通の人とはかけ離れていた。
なんて人だろう。
こんなセリフを、こんな容姿で、こんなに違和感なく言ってのけるのは彼ぐらいだ。
最初のコメントを投稿しよう!