第二章

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 雪は首を少し傾げてから納得して、あ、とつぶやいた。  「納得?」  「うん。あはは、万能薬、か。便利ね」  ギリシャ神話は、一番無難でよく知られた神話だろう。雪も小さなとき、子供用に書かれた絵本で読んだことがあった。  たしかアポロンといえば、月桂樹の冠をかぶった美少年の姿で描かれることが多い、太陽、医学、音楽の神だ。  真澄はいたずらっ子のような笑みを雪に向ける。  「便利さ。風邪なんかひいたことないし」  言いながら手を引く。2人は階段を上がっていった。吹き抜けになっていて、上の階の踊り場から、女の子が2人、雪と真澄を見てささやきあっている。 こう言ったように聞こえた。「あの子が?」  居心地の悪さを感じながら、真澄に話しかける。  「―…でも、ほんとに何でもありなんだね」  「何でもって?」  「神話っていっても、沢山種類があるし―…」  「ああ」  真澄が頷いた。  「そう言うことか」  「うん。日本に、ギリシャの神様が生まれ変わるって言うのも変な感じがする。それって、普通?」  「とくに珍しいわけじゃない」  五階分階段を上がると、建物の雰囲気がガラリと変わる。階段はまだ上まで続いていたが、真澄はそれ以上は上らなかった。一体、何階まであるのかしら。と雪は考える。
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