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雪は首を少し傾げてから納得して、あ、とつぶやいた。
「納得?」
「うん。あはは、万能薬、か。便利ね」
ギリシャ神話は、一番無難でよく知られた神話だろう。雪も小さなとき、子供用に書かれた絵本で読んだことがあった。
たしかアポロンといえば、月桂樹の冠をかぶった美少年の姿で描かれることが多い、太陽、医学、音楽の神だ。
真澄はいたずらっ子のような笑みを雪に向ける。
「便利さ。風邪なんかひいたことないし」
言いながら手を引く。2人は階段を上がっていった。吹き抜けになっていて、上の階の踊り場から、女の子が2人、雪と真澄を見てささやきあっている。 こう言ったように聞こえた。「あの子が?」
居心地の悪さを感じながら、真澄に話しかける。
「―…でも、ほんとに何でもありなんだね」
「何でもって?」
「神話っていっても、沢山種類があるし―…」
「ああ」
真澄が頷いた。
「そう言うことか」
「うん。日本に、ギリシャの神様が生まれ変わるって言うのも変な感じがする。それって、普通?」
「とくに珍しいわけじゃない」
五階分階段を上がると、建物の雰囲気がガラリと変わる。階段はまだ上まで続いていたが、真澄はそれ以上は上らなかった。一体、何階まであるのかしら。と雪は考える。
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