第八章

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 その時、  イイィィイーーーー…!  耳鳴りのように甲高い嫌な音が頭上から聞こえる。  思わず雪は空を降りあおぎ、僅かに瞠目した。  「弥生…」  空を舞う、幾億もの花弁の残像。  自らが司る、黄金の太陽を背に、彼女は空を飛んでーー否。舞っていた。  「この日の本で、私以外の者が天空の領域に踏みいるでないわ!」  彼女は光よりも早く天を駆け上がり、空中で留まっていたエンリル目掛け、力のオーラをたなびかせた槍を、突き上げた。  その刹那。  ーーーー閃光。  ドゴォ……ォンン!!  バリバリバリバリバリィッーー…  ーーひどく偉そうな声が、閃光と爆音のなかでも、強すぎる存在感を纏って響き渡る。  「我が名は天照大御神、この日の本に於いて、天空をあまねく統べる神である。その私を前にして、無礼にもその領域を侵すとは!万死に値する!!」  青白い光が引くと、森に巨大なクレーターが出来ていた。木々は激しい落雷に軒並み引き裂かれ、燻り、細く白い煙をたなびかせている。  どうやってか、両足で空をしかと踏みしめ、弥生は仁王立ちでクレーターを見下ろしている。  「ああ…森が…ー」  いつの間に瓦礫から這い出たのか、太凰が検討違いの悲しみに美しい面を歪めていた。  凄まじい有り様だった。学院の方角から、けたたましくサイレンが鳴り始める。  ロキが盛大に顔をしかめ舌打ちをする。  「…おいおい、あのジジイ、ふんぞり返っといて殺られてんなヨ☆」  言うや否や、一瞬のうちにその姿を消した。拮抗していた力がとけ、雪はたたらを踏んでよろける。  「どこにーーー!」  『ちょっとブが悪そうだし、帰ることにするよ☆せいぜい今のうちに、この腐った果実みたいな学園を楽しんでおけば良いさ』  「っ……」  右から?左から、上から下から。ロキの甲高い声を孕んだ風が吹く。その風に頬を撫でられた気がして、雪は力任せに剣で空を切った。
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