睦月-始まりの月-壱

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永級は机に置かれた種子島を詫助の方に延ばした。 「それを君に授けよう。それは何かと役に立つだろうからね」 それを聞いて詫助は声を荒上げる。 「いや、待て待て!! その十二人か? そんだけの人数殺るのにこの大所帯。おかしいだろ」 「ふっ、まぁ君に金こそ信頼と言われたからね。ちょうど持っていた地図と銃を君に自慢したくてね」 詫助は目の前にある二つの国家機密を指差し永級に言及した。 詫助は怖かった。 国家の秘密を二つも提示され、たかだか十二人を殺す? コレならば大名を丸め込めるだけの交渉材料となる。 永級は詫助の訴えを聞いて今までとは違う、目を細め口を吊り上げて冷たく笑う。 鋭く鷹のような眼孔で永級を見ていた詫助だったが、どうやら詫助は能有る方の鷹に睨まれていたようだ。 「なに、ずっとそんな物を預ける気はないよ。それにいくらソレに価値があろうと、持ち逃げして換金しようとしたら即刻、奉行所も通らずに大阪城で首をはねられるだろうけどね」 「………」 先ほどまでの雰囲気が嘘のように重い、詫助は半信半疑で聞いていたが、地図が出てきて銃が置かれた瞬間、詫助の背筋は伸びていた。 「さぁさぁ。僕の身分は分かったよね元忍びの詫助氏。やる? やらない? ……殺られる? 殺る?」 詫助は最後にもう一度告げられた言葉を吟味し、数瞬考え答えを出した。
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