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重々しく存在感を誇っていた日本地図は永級のポケットへ、種子島は詫助の懐へと仕舞われていた。
現在は武家屋敷の見取り図が机に広げられていた。
「これを見て誰の屋敷か分かるかい?」
「見取り図の紙を見たら分かるだろ。見た目新しいから最近政庁に来た畑山の屋敷だろ?」
「正解。解答にいたる経緯は評価しないからよろしく」
永級が元の子供のような笑顔を詫助に向け、詫助はかったるそうに「へいへい」と答えた。
「それで、この畑山家を皆殺しにしたら良いのか?」
「家族は居ないよ。まだ正妻を取っていなくて子供も居ない。歳は四十過ぎなのに……よっぽどの嫌われ者か、どこかの変態のように━━」
「で、だ! この屋敷にはどれくらいの侍が居るんだよ永級!」
「………」
ジィーっと詫助を見る永級。
詫助はそんな視線に目を反らし、地面を見た。
永級は鼻を鳴らし説明を続けた。
「畑山は大阪城政庁に出入り出来る位には居るけど新参者で地位も資金も無く、門番や警備の侍は十人かそこらだろ」
「十人……」
「声を出させずに殺れ、暴れる暇を与えるな。条件一」
永級が右手の人差し指を上げる。
「条件?」
「畑山の屋敷の周りには民家がある、それに騒ぎを聞かれたら面倒だからね。元忍びなら十八番(おはこ)だろ?」
詫助は何か言わんと口を開くが、永級はそれに合わせずに続け右手の中指を立てる。
「目標の畑山は殺すな、怪我をさせるな、縛れ。条件二」
「殺さず生け捕りか」
「これはこれからの仕事にもすべて反映される。トドメは僕が刺す」
「……分かった」
最後に永級の目が一瞬鋭く光った。
詫助の勘が何かを感じ取ったが、今は言わずにいることにした。
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