弥生-傀儡の銭道楽-終

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永級が繰り返し聞き返したことを、やっと誤解を解いてもらえたと安堵し、逆に永級に感謝してもらおうと詫助は胸を張って言った。 「そうだ! 抱いたよ、抱いたんだよ! それから早く西将を楽にさせてやろうと急いで入れたんだよ」 と詫助。 しかし、あばら屋に、と言うのを略したせいで永級はとんでもない方向に解釈をした。 「挿れた!? うわぁぁぁ!! 詫助氏との初めては浜辺でしかも簡素でずさんなもので済まされて、あのあばら屋で僕をまた陵辱するなんて、最低ですー!! うわーーーん」 目に溜まった涙をこぼしながら走り出す永級。 「詫助氏は獣(けだもの)ですぅぅ~。うわーーーん。僕の純情を返せです~」 そんなことを叫びながら、走り去っていく永級。 「え、えぇ~……」 とこどころ重要なところを言わなかった詫助は呆然と、何も掴むことの出来ない腕を上げた。 「俺、西将のこと助けたのになぁ~……」 さすがに心にくる詫助。 今の詫助には命を助けた永級にあらぬ誤解を掛けられたことによるショックで心が砕けそうになる。 「……あぁ、なんか。今日一日、良いこと無かったな……」 呆けるばかりの詫助の目からは一筋の涙が伝う。 その後、永級物産展本店三階の永級の私室の扉の前で詫助は懸命に詳しく説明したが、永級は信じてくれず「部屋に入れたら狼に食べられてしまうから嫌だです!」と扉の向こうから言う永級にさらに傷心する詫助。 それを永級物産展副頭の夏将に慰められ、夏将の熱心な交渉の末に、日が回る前に仲直りして、翌日には長崎の温泉旅行を馬車で行く二人だった……。 そんな二人が仲直りした同じ頃、長崎保安庁の牢獄に一人の老人が居た。 永級西将の懐刀(自称)のさね丸だ。 「しくしく……しくしく……」 彼は一夜座敷牢での反省と刑を言い渡された。 当然身分を明かせばすぐにでも保釈となるが、その身分を示すものも無く、また誰も迎えが来ず結局彼は一夜座敷牢で過ごすこととなった。 「ながじなじゃまぁ~~」 彼のはな垂れ声は綺麗に輝く月夜の座敷牢に響くのだった。
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