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長崎温泉旅行最終日の夜。
七日七晩温泉三昧の永級と詫助。
今日は最後の温泉地で買い物や観光をしてから温泉宿の露天風呂でくつろいでいた。
ちなみに永級持ちで貸切りにしてある。
「なんか時間があっという間に過ぎたな……明日には長崎を出るのか」
「何ですか? 長崎が気に入りすぎて永住でもしたくなりました?」
「いや、そこまではならんさ」
バシャンと顔に温泉を掛ける詫助。
永級に付けられた銃傷は完治していた。
もともとそんなに重傷だったわけでもなく、医者に早くに見せて塗り薬も処方されていたので早くに完治した。
それに詫助に備わった回復能力もあり、銃傷の痕は綺麗に無くなっていた。
「でも、こういうのも良いよな……西将と一緒に風呂入って夜空を眺めてさ」
「いつになく詩人ですね。確かに、大阪から長崎までまともに入浴なんてしていませんでしたから、今回の詫助氏の慰安旅行は僕にとっても嬉しいものでした。商いをする身ですので、なかなか自由な時間もありませんし」
「ふぅ」と息を着いた永級の顔はほんのり赤く、肌も紅潮して艶やかになっていた。
それを見た詫助は、視線を外した。
当の本人は頭に乗せた手拭いで汗を拭って、肩まで深くお湯に浸かった。
目のやり場に困った詫助は顔を上げ夜空を眺める。
爛漫と輝く星空。
辺りは静寂に包まれ、温泉が流れる音しかしない。
湯煙が立ち込め風情を醸し(かもし)出す。
「この旅行で知ったのですが、詫助氏はあまりお酒は強くないのですね」
「そうだな。たしなむ程度にくらいだな……どうしたいきなり」
「いえ、こう気が緩むと詫助氏との出会いを思い出して……」
「まだ会って三ヶ月だろ……この仕事が終わってからゆっくり回想しろよ」
「そうですね」と笑う永級に詫助も笑みがこぼれた。
「そんなお酒の飲めない詫助氏がなんで飲み屋に居たのですか? 藪から棒にですが」
「うん? まぁなんだ。たしなむ程度に飲みたくなったんだよ、結局は西将が来たから一口しか飲んで無いけどな」
そう言われて、そんなたしなむ程度に飲みたくなる理由を薄々感じた永級は、そこを弄り倒そうか迷ったが、温泉で毒気がなくなった今の永級はそれを止めた。
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