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一瞬光った眼孔をすぐに戻し、永級は畑山家屋敷の見取り図から詫助に顔を向ける。
「他に聞きたいことは?」
「もうねぇよ。抜け忍にゃあ、容易い仕事よ」
「だよねぇ~」
詫助の言葉を聞いて、永級は嬉しそうに鼻歌混じりに見取り図を畳む。
「だと思って」
永級は見取り図を懐に入れると、唐突に言い放った。
「用心棒を畑山に送っといたよ」
「用心棒……? お前を守るか?」
「いや、は・た・け・や・まの」
永級の言葉を聞いた詫助は言葉を失った。
掛けるべき言葉はいくらでもあったが、驚きのあまり、口が開かない。
やがて……。
「はぁぁあああぁぁぁ!! 何してんだよ!!」
「えぇ~。ただの門番や警備侍じゃもの足りないと思って、僕からの粋な贈り物なのに~」
「ワケわからねぇよ!! 何で仕事の難易度上げるよ! 何がしたいんだよ!!」
身を乗り出し永級に詰め寄る詫助。
それに永級は動じる事もなく、笑顔のままだった。
「君の実力と僕の運を試すためだよ」
「運?」
詫助が永級の言葉を反芻すると、永級は右手の人差し指、中指を立てた。
「先ほどの僕がトドメを刺す。これが義務の一つ目」
立てた人差し指を動かす永級。
「そして二つ目が襲撃には僕を同伴すること」
「ちょっと待てよ!」
中指をクイックイッと動かしていた永級に声を上げた。
「なんだ、つまりは、目的の人間をその場で殺すってことか? 俺がかっさらって来るんじゃないのか!?」
「僕がその場で殺す。言うのが遅れたね」
さらりと言う永級に拳を握り怒りを露にする詫助。
「簡単に言うな! お前みたいなガキ、邪魔でしかない。用心棒を雇うわ、お前は本当に畑山を殺したいのか?」
「畑山だけじゃない。あと十一人もだ」
永級の目は真剣で、一回りは歳の離れた永級に詫助は身じろいだ。
「僕の身は僕で守る。君は現れた輩を退ければ良い」
「くっ、信じられねぇ」
「君なら出来るさ。元忍びの元忍び頭の詫助氏」
「……知ってるのか……俺のことを」
「職業柄……ね」
詫助は気を沈め、椅子に腰を下ろした。
大商人に抜け忍が屈した瞬間であった。
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