睦月-始まりの月-弐

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一瞬光った眼孔をすぐに戻し、永級は畑山家屋敷の見取り図から詫助に顔を向ける。 「他に聞きたいことは?」 「もうねぇよ。抜け忍にゃあ、容易い仕事よ」 「だよねぇ~」 詫助の言葉を聞いて、永級は嬉しそうに鼻歌混じりに見取り図を畳む。 「だと思って」 永級は見取り図を懐に入れると、唐突に言い放った。 「用心棒を畑山に送っといたよ」 「用心棒……? お前を守るか?」 「いや、は・た・け・や・まの」 永級の言葉を聞いた詫助は言葉を失った。 掛けるべき言葉はいくらでもあったが、驚きのあまり、口が開かない。 やがて……。 「はぁぁあああぁぁぁ!! 何してんだよ!!」 「えぇ~。ただの門番や警備侍じゃもの足りないと思って、僕からの粋な贈り物なのに~」 「ワケわからねぇよ!! 何で仕事の難易度上げるよ! 何がしたいんだよ!!」 身を乗り出し永級に詰め寄る詫助。 それに永級は動じる事もなく、笑顔のままだった。 「君の実力と僕の運を試すためだよ」 「運?」 詫助が永級の言葉を反芻すると、永級は右手の人差し指、中指を立てた。 「先ほどの僕がトドメを刺す。これが義務の一つ目」 立てた人差し指を動かす永級。 「そして二つ目が襲撃には僕を同伴すること」 「ちょっと待てよ!」 中指をクイックイッと動かしていた永級に声を上げた。 「なんだ、つまりは、目的の人間をその場で殺すってことか? 俺がかっさらって来るんじゃないのか!?」 「僕がその場で殺す。言うのが遅れたね」 さらりと言う永級に拳を握り怒りを露にする詫助。 「簡単に言うな! お前みたいなガキ、邪魔でしかない。用心棒を雇うわ、お前は本当に畑山を殺したいのか?」 「畑山だけじゃない。あと十一人もだ」 永級の目は真剣で、一回りは歳の離れた永級に詫助は身じろいだ。 「僕の身は僕で守る。君は現れた輩を退ければ良い」 「くっ、信じられねぇ」 「君なら出来るさ。元忍びの元忍び頭の詫助氏」 「……知ってるのか……俺のことを」 「職業柄……ね」 詫助は気を沈め、椅子に腰を下ろした。 大商人に抜け忍が屈した瞬間であった。
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