卯月-船上の最強拳士-壱

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「そもそもウザ兎はなんで僕たちと行動を共にするのですか?」 「う~ん次のお仕事があんだけどぉ、詫先輩と美人さんと行く道が今んところ同じだから?」 「ではあの木陰で鼻歌を歌っていたのは、誰かを待ち合わせたのではないのですか? まさか僕らを待ち伏せたのではないでしょうね」 「まっさかぁ~、兎くんはぽかぽか陽気に木陰でだらだら寝ようかなぁ~って思っていたら詫先輩がぁ~ってことですよ?」 「………………」 永級の質問に脱兎は答えているのだが、永級の小さく握られた拳がぷるぷる震えている。 しかも可愛らしい永級の眉間には見えてはいけない血管がピクピク動いているのを見て取った詫助は、永級が銃を抜き出す前に二人の間に入った。 あとで永級のもやもやをぶつけられるのは一向に構わないが、万が一脱兎が気紛れを起こして戦闘になったらかなりまずい……。 整備された街道には馬車も旅人も歩いていて、脱兎が戦闘をするとなればこの一帯が大変なことになるのを詫助は知っていたからである。 脱兎の戦闘被害よりも、永級をなだめる方が安く着くと詫助は結論付け、永級の言い付けを破って脱兎に尋ねた。 「お前の仕事はどこなんだよ、俺たちは豊前から関門海峡の方に行くんだが……」 永級は詫助に何か言いたげだったが、脱兎との会話の内に話すのも嫌になったようで、腕を組んで二人の話を聞いた。 「関門海峡? 本州に渡るんで? って、あそこには絶対関税機関が陣取ってるから渡航ではないのか……?」 「絶対関税機関? ……あぁ渡橋船ね、あれをそんなけったいな名前で呼ぶから一瞬分かんなかったじゃないか」 「詫先輩は九州辺りにはいらしてなかったんですかぁ? つい……五年、もう三、四年前だったかな? あの橋船の責任者が変わったんですよぉ? 名前は轟動扇? 大和政府戦(いくさ)監督を若くに退職して、故郷の長門に戻ってから……そう、一時期海賊が出たんですよ? 知っていますか?」 詫助は首を傾げた。 「俺の縄張りは本州の大和の国境だからな。九州地方のことは分からん」 「そういやそうでしたぁ? まぁ、その海賊ってのが質(たち)が悪くてぇ今掛かってる橋船の橋桁の影に隠れてぇ、貨物船を襲っては事故に見せかけて岸壁にぃ座礁させて沈没させるんですよぉ?」  うむうむと頷く詫助に永級はむくれ面で脱兎に説明聞く詫助を横目で見た。
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