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「その証拠にぃ? 轟動の乗っる予定だった軍艦の外輪機関の炉が不調になって爆発寸前になったとかぁ? だから轟動は手漕ぎの小舟で海賊の艦隊に向かったんだとかぁ?」
「そうなのか……」と詫助は頷く。
そう、轟動扇は単体でしかも手漕ぎ舟で海賊の艦隊に挑んだのである。
明らかなる戦力差。
だが轟動はこの局面を打破した。
自らの轟動流拳法で……。
「とんでもない不運の持ち主で伝説、その逆境においての勝ち星で最強。それが轟動扇の最強伝説なのです」
「最強伝説ぅ? これは二つで一つの意味ではなく、その逆ぅのぉ~“最強の強さと伝説の不運”ってのがあるんですよぉ? ある意味略語ですねぇ?」
「略語か。うむ、その轟動って奴の力量は大方わかった」
「うん」と頷く詫助に「そういやぁ?」と、脱兎が目をさらに細めて言う。
「詫先輩の口振りだとぉ~、まるでこれから轟動扇と一戦交えるような言い方ですねぇ?」
何気ない脱兎の疑問が二人の緊張を一気に上げた。
脱兎と会話している内に、詫助はこれから戦う轟動扇の情報について深追いし過ぎ、永級も脱兎の言葉の真偽に集中していて気が緩んでいた。
この旅は永級西将が十二ヶ月で十二人の人間を殺すことが目的であるが、その条件は幾つかあり、その中に永級の存命と身分の確保があった。
つまりは雇い主の永級が生きているのは勿論、永級の今の立場を脅かすようなことがあってはならないのである。
誰が殺ったか分からないように、足が付かないようにするのも詫助に課せられた条件の一つだった。
畑山の時では証拠隠滅のために畑山邸を放火。
畔倉の時では畔倉藩の人間を皆殺しにして証言者を消した。
遊戯丸の時では遊戯屋敷の封鎖して旅商人遊戯丸の行方が分からないようにした。
そうして永級が主犯という証拠をことごとく消し去っていたが、思わないところでボロが出てしまった。
永級はすぐに銃をしまってあるポケットに手を忍ばせる。
それに気付いた詫助は現役時代の後輩の脱兎を助けるべく、ひいてはこの状況を穏便に済ませるために勤めた。
「知的好奇心だよ。轟動流拳法って言うからには、得物は俺と同じ手足だろ? それに最強伝説? こんなの聞かなきゃ男じゃないだろ?」
少し苦しいかと詫助は思ったが、脱兎はすぐにケタケタと笑い出した。
「あははははは!!? いやだなぁ~詫先輩ったら面白いですよぉ~? あははははは!!?」
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