睦月-始まりの月-参

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畑山邸の門番二人を早々に殺めた詫助。 その手並みを見てほくそ笑む永級。 「二人、声を漏らせぬまま殺める……。やるね」 「こんくらい普通だろ」 そう言いながら門番の帯に付いた鍵を拝借する詫助。 畑山邸の前の道には誰も居らず、彼らの侵入を誰も見ることは無かった。 畑山邸の敷居を跨ぎ、庭に入る二人。 詫助は辺りに気を張りながら、依頼主の永級にも目を離さない。 万が一にも彼が死ぬようなことがあったらすべてが無駄骨だ。 もし捕まり拷問に掛けられたら、この少年の口など紙を裂くように用意だろう。 だから、詫助には彼の提示しなかった条件を自らに戒めた。 永級西将を守りきると。 庭で三人、屋敷の廊下で二人。 死体は全て屋敷の軒下に置いておいた、門番もである。 詫助はこれらの作業をしながらも永級に目を向けていた。 永級は詫助の作業をただ無感動に見るままで、表情に変化はない。 これくらいの歳ならば、何らかの反応を見せるのだが、彼にはそれが無い。 こんな訳の分からない子供の言いなりになる自分に自嘲する。 そもそもこんな仕事、平等ではない。 詫助にばかり皺が寄る。 報酬が莫大でもその過程に似合っているかが疑問だった。 日本地図や種子島で彼の背景や資金力は把握できた。 ……なら、なぜ彼は自らの権力と資金で手を下さないのか。 手を汚したくない? いや、永級は自らのトドメを刺すと豪語していた。 では……。 熟孝している間にも三人の命の灯火を消し去り、永級の話しによると、あと一人。 彼が畑山に差し向けた用心棒だけどなった。 屋敷の主が居るだろう寝室に通づる唯一の部屋の襖をゆっくり少し開け、中を伺う。 蝋燭に灯され明るい室内、二十数畳ある大広間。 その真ん中に禅を組む用心棒の男、玉川新左衛門(たまかわ しんざえもん)が居た。
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