2057人が本棚に入れています
本棚に追加
がさがさという葉の擦れるような音で彼女は目を覚ました。
あたりは真っ暗だ。いくら今日が満月だからといっても、彼女の今いる洞穴の奥まで照らすことはできないでいる。
彼女は眠そうに目をこすりながら上半身を起こし、あたりを見回した。彼女には、この暗闇の中でも、すべてがはっきりと見えているらしい。すぐに、彼女はそばにあるはずの母の姿が見当たらないことに気がついた。
「朧(おぼろ)?」
声をかけてみたが、返事がない。
周りで寝息をたてている兄弟たちを起こさないように注意しながら立ち上がり、彼女は洞穴の入口へ向かった。母親はすぐに見つけることができた。
「朧?」
彼女が母の背に声をかける。母はまるで娘が起きて来ることを知っていたかのように、驚く様子もない。ただ空高くに上りきった満月を、静かに見上げているだけだった。
「どうしたの?」
彼女は声をかけると、労るように、その小さな手を母の体に添えた。
母が、それに答えるように、幼いわが子に視線を送る。黒曜石のような母の瞳に、柔らかな色が灯った。
「…………泡雪(あわゆき)の気配が消えた」
「泡雪? また気配を消しているのではないの?」
「奴がどんなにうまく気配を消したとて、我には分かる。奴とは久しく会っておらぬが、いつもあの巨大な妖気を直ぐそばに感じておった。じゃが、今しがた、それがぷつりと消えた」
「死んだの?」
最初のコメントを投稿しよう!