彼は言っていた。

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    彼は言っていた。   「世の中がおかしくなったのは誰かのせいなのか?それとも俺のせいなのか?」     彼はいつもそのことで悩んでいるようだった。   しかし、私に手を貸す事は許さなかった。   というより、彼は手助けを求めてはいなかったのだと思う。     「おかしなことがありすぎて何がおかしくない正常な事か判断が鈍ってきている」   そうも言っていた。   彼は世の中にはびこるおかしな事が苦手だったのだ。   おかしな事、とは何かと言われるとなかなか説明しづらい。   それがなんであるかの基準は私にはなく、彼にあったから。   過去に彼が話していた事から推測するに、親が子供に関心をもたないことだとか、嘘をついてもあとで説明をすれば許されるようになったとか、芸能人の色恋沙汰ばかり追いかけるマスメディアだと思う。   「何か他にないのか?頭が痛くなるね、まったく」   そう嘆く事も少なくはなかったのだ。 それと同時に、怯えていた。   「自分が原因だとするならば俺はどうしたらいいのだ」   頭を抱えている姿はなんとも情けなかった。が、とても人間らしくあった。     「なぁ、君はどうしてそう平然としていられるのだ?」   彼に聞かれたことがあった。   平然となんてしていませんよ、アナタと同じですよ、と私が答えても、   「嘘をつくならもっと上手くやらないとバレバレだ」   そう睨まれたものだ。   そんな彼はもう、いない。 二度と会えない。   会えない、というのは遠い土地に行って会えないのではなく。  彼は、彼が、彼自身がもうこの世界から消えたのだ。   早い、別れだった。  
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