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彼は泣いていた。
いや、泣くというよりは勝手に涙が流れているだけという風に見えた。
何かあったのかと私が聞くと
「何もないから、泣いているんだ。俺は幸せなんだ」
彼は涙を拭って無理やりに笑った。
彼らしくなかった。
自分の事を幸せと言うなんて。自分の事で涙を流すなんて。
「アナタらしくないね」
その時私が何気なく口にしていたその言葉に彼はとても悲しげな表情をしていた。
気づいて欲しかったのかもしれなかった。
私を試したかったのだ、とも思う。
「君が居てくれれば、俺はもう何もいらないんだ」
彼は普段では有り得ない陳腐な言葉を残した。
「やめて。そんなの言わなくていいから。依存してはいけない」
彼は私の言葉に返事をしなかった。
そしてまた一粒涙が流れた。
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