彼は泣いていた。

3/3
前へ
/13ページ
次へ
    しばらく無言でいた。 無音のまま時が流れていた。   このまま何も無くなればいい、私はそう思い始めていた。     「何かを無くす事は何かを増やすことと一緒だよ。減れば増えるし、増えれば減る」   彼は私に微笑んだ。   いつも彼には私の思っている事や、考えている事が手にとるように分かっていた。   私はそれに不快感を覚えたことはなかった。 むしろ、安心していた。     「今日で泣くのは終わりにするよ。やっぱり辛くないのに泣くのは本当に辛い人に失礼だ」   彼はそう言って涙を拭って、白い歯を見せていた。   どうして泣いていたの、と私は聞かなかった。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加