大罪と偶然の交錯

10/12
前へ
/404ページ
次へ
  「さ、さささ、桜?」 健介は震える声で言い、机に向かう妹に手を伸ばした。返ってくるのは、冷たい一言。 「だから、何? 用がないならさっさと出てってよ」 ――。 思考回路が切断された健介は、つい先日の会話を思い出す。 『ん、明日? ごめん。明日は菜月と勝真と野球すんだ』 『えー。そんなぁ。せっかくの休日なのに……』 『ごめんごめん。また今度な。それとも明日じゃなきゃ駄目なのか?』 『うーん、そういうわけじゃなくて……』 『どうした? もじもじして』 『あのね。その……洋服がほしいの』 『ん? そんなもん買ってくればいいじゃないか』 『だーかーらー! お兄ちゃんに選んでほしーの! 一緒に行きたいの!』 『!』 『その、ね。だから……』 『わかった。来週な。絶対行こう』 『うん。……指切り』 『はいはい。約束破ったら針千本ねー』 『うん』 今。 「何ぼけーとしてんの。寒いから閉めて」 な、なにがあったんだ、我が妹よ。健介はぶざまにも崩れかける。も、ぎりぎりで踏ん張った。
/404ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1071人が本棚に入れています
本棚に追加