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「さ、さささ、桜?」
健介は震える声で言い、机に向かう妹に手を伸ばした。返ってくるのは、冷たい一言。
「だから、何? 用がないならさっさと出てってよ」
――。
思考回路が切断された健介は、つい先日の会話を思い出す。
『ん、明日? ごめん。明日は菜月と勝真と野球すんだ』
『えー。そんなぁ。せっかくの休日なのに……』
『ごめんごめん。また今度な。それとも明日じゃなきゃ駄目なのか?』
『うーん、そういうわけじゃなくて……』
『どうした? もじもじして』
『あのね。その……洋服がほしいの』
『ん? そんなもん買ってくればいいじゃないか』
『だーかーらー! お兄ちゃんに選んでほしーの! 一緒に行きたいの!』
『!』
『その、ね。だから……』
『わかった。来週な。絶対行こう』
『うん。……指切り』
『はいはい。約束破ったら針千本ねー』
『うん』
今。
「何ぼけーとしてんの。寒いから閉めて」
な、なにがあったんだ、我が妹よ。健介はぶざまにも崩れかける。も、ぎりぎりで踏ん張った。
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