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どこまでも晴れ渡る、青空の下で。一つの白球が宙を舞った。優雅に空中を闊歩するそれは、捕らえようとしたグローブの上を通り抜け、疾駆していった。
「てめぇ、こら、健介ぇ! やる気あんかぁ!?」
そんなボールの後からは、轟く怒号。金属バットを振り上げ、躍起になって叫んでいる少女から発せられたもの。
隣からも、
「今のはとれたぞー、健介。菜月が怒るのも無理はないなぁ」
二人の力関係を考慮し、強い方につくという安全策をとった男の台詞が耳に届く。
「無理だろぉ!」
三つ目の声。それは先程の打球を後ろに逸らしてしまった少年から放たれたものだった。
少年――中道健介は転々と転がる軟式野球ボールを、へっぴり腰で追い掛けている。
「てめぇがいつまでも下手くそだから特訓してやってんだろ! 甘ったれんな!」
「おっしゃるとおり」
(くそ! みんな敵か!)
健介はその場の理不尽な空気から逃げるように、駆けるスピードをあげた。
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