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「ただいまー」
泣きそうになるが、もはや慣れたこと。そして、このあとに至福のときが待っているのも……慣習ッ!
健介は待った。そのときが訪れるのを。傷が一瞬で快楽へと昇華されるのを。しかし、それは5分待っても姿を見せなかった。
「お風呂、か?」
淋しさと虚しさを胸の内に込め、健介は粗末な二階建て住宅へと足を踏み入れた。そして、居間へと足を運ぶ。彼女はいるかなーと期待を待っていたのだが、居たのは、
「んだ、母さんだけかよ」
「……悪かったわね」
昭和の母さんを体言する、くるくるパーマの母親。彼女はテーブルに肘をつき、物憂げな表情でそこにいた。
「元気なくね?」
ふぅーと一息入れ、そんな母親の前に座る。
「桜は?」
健介は居ても立ってもいられず、そんなことを尋ねた。それこそ健介の待ち人なのだが、いつもと違って現れない。
「ああ……あのね。桜ちゃんのことなんだけど、あんた何かした?」
母さんがこんな悲壮感漂う面持ちでいるのは、愛しの妹、桜に帰結するらしい。
「俺がなんかするわけなくね」と健介が少量の怒気を含ませながら言うと、
「そうよね」
と、同意の声。
「毎日ブラコンシスコン包囲網だもんね。喧嘩なんかするわけないか」
です。
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