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「…でも、結婚してからの生活まで考えると、そんなに呑気な事も言ってられなくなるわよね」
「というと?」
「…うーん、口頭じゃ少し説明しにくいわね。じゃあここは情報の伝達がよりスムーズに行くように、仮に、仮に私と章人君が結婚したとして話をして行くわね」
「…そんなに『仮に』を強調しなくても」
俺の言葉に、詩織を頬をうっすら赤らめると、小声で何かをぼそりと呟き、少し沈黙してから何もなかったかのように話し出した。
…かわいい奴だ。
「もし、か、仮に私と章人君が結婚したら、恐らく章人君が仕事をして私が家事をこなす事になると思うの」
「ああ、まあ、普通はそうだよな」
「結婚当初は章人君も私の事を慮って、朝から仕事をして、夕方くらいには帰って来てくれると思うの」
「うん」
「でもその内仕事も大変になってきて、帰りがどんどん遅くなる。そして私が章人君と一緒にいられる時間もどんどん短くなる」
「…うん」
「私はこんな性格だし、結構な人見知りだからその頃になってもまだご近所さん達とはギクシャクしてると思う」
「………」
「家事なんてどんなにしっかりやったって、1日全部を費やす事はないわ。遅くたって夕方には粗方終わって、ちょっと一息ついて夕ご飯を作るの」
…なんだかダークな感じになってきたな。仮の話なのにそこはかとなく漂っているこの生々しさは一体何だ。
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