色の無い世界

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と考えているのもつかの間。 いや、やはり第一印象って大事だと思う。 次に部屋に入って来た存在に、俺は瞬間的に身体を硬直させた。 上に向かって伸びた尖った耳に、横にゆらゆら揺れる長いしっぽと、線のような細い目。 さすがの俺も今回ばかりは表情が歪んだのが自分でわかった。 そこにいたのは、紛れもない二足歩行のネコだ。 隣にいるナヨっとした男性教師よりも背の高いネコが、ニヤリと笑いながら堂々とした様子で部屋に入ってくれば、誰だってこういうリアクションをとると思う、いやとってほしい。 スライドするドアギリギリくらいのふくよかで見るからに柔らかそうなネコは、おおよそ人とは掛け離れた姿で向かいのソファーに腰かけた。 「おや、珍しいね。この姿を見て大した反応を出さないなんて」 物凄い偉そうに淡々と喋り出したネコ。 不謹慎ながら興味を持ってしまい、返答するよりも見入ってしまったのは失礼だったと思う。 「外には出してないがかなりびっくりしてる」 「あっはっはっはっは。そうかい、そりゃあケッタイなガキだね。安心しな、取って喰いはしないよ」 ネコは高らかに笑うと、どこから取り出したのか木製のアンティークパイプを手に掴んでマッチで火を着け、美味しそうにに煙を吐き出した。 ルックスはともかく、どうやらそんなに悪い人、いやネコではなさそうだ。 「この学園は、訳ありの生徒が集まって出来上がってるからねェ。校長もこれくらいで丁度いいのさァ」 ああ、そういえば局長から聞いていたが、この学園の生徒の90%は“訳あり”な生徒らしく、何らかの事情を持った子供達によって構成されていると聞いた。 だが、気にするべきは後者に言い放ったその衝撃な一言。 「校長?」 「おや、そっちに食い付いたのかい」 そんな戸棚のお菓子を見つけた子供みたいなノリで話を進めるのはやめて頂きたいのだが。 「隣に座ってるアンタが校長なんじゃないのか?」 「あァそうさァ、校長はこのアタシさね」 いつもニコニコ笑っている老人が校長先生だと思っていた俺の純情なイメージがことごとく崩れ去った。  
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