色の無い世界

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「それで」 「ああ、そうだったねェ」 校長は細長い目をパチクリさせてから話を続けた。 「さっきも言ったとおり、アタシゃこの学園の校長のウランってモンさね」 人でないどころか、間違いなく魔獣でしかないネコがニヤリと笑い名乗る。 「アンタは今日から編入生として入学してもらう。担任はこっちの情けない男だが、まァ問題はないだろう」 ウランは淡々と話を進めて行くのだが、俺には現実味のない話に思えて仕方ない。 体験したこともないから想像することすら出来ない。 転校生って言うのは珍しいものなのかもしれないが、そういうのから発展してイジメとかの心配をする俺は、やはりテレビに影響されすぎているのだろうか。 「アンタのクラスは女の子ばっかりだけど……」 それからウランは品定めでもするかのように俺の身体を上から下まで眺める。 「まあ、大丈夫でしょ」 今何を基準に判断したのかはわからない。 何度も言うようでしつこいって言われるかもしれないが、俺は病院の中でずっと生活をしていたから、他人を見る機会が極端に少なかった。 つまり俺は外見で人を判断することが出来ないのだ。 それが例え魔獣でも。 「アンタも何か事情を抱えてんだろうけど安心しな。ここの生徒はみんなわかってるから問いつめたりなんかはしないから。無論アタシもさァ」 ウランは笑いながらパイプを口に加えて、横向きに煙を吐き出し機嫌良さそうに笑った。 この学園のシステムなのだろうか。 きっと自然とそういう規律が出来たのだろう。 事情や“訳あり”について触れないことは、俺にとってかなり嬉しいことだった。 あれこれ詮索されるのや、やたらと馴れ合いを好むのは俺の性に合わない。 「この学園は大体そんな感じだから安心して生活を送ってけるはずだよ」 不安と恐怖が、希望と夢に徐々に変換されていくのを感じる。 「イジメなんてなァあり得ないねェ、何しろみんな傷だらけだから今さら人を傷付けることんてしないからさ」 傷だらけ、か。 俺は別に自分が世界で一番不幸だとは思っていないが、少なくとも普通に生活している人よりも残念な人生を送っていると思う。 そんな人生を送っている人が集まるこの学園では、お互いを傷付けることなどせず助け合って生きているのだろう。  
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