色の無い世界

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Ne 俺は人生に色を感じた事がない。 色盲と言う障害で、白と黒と灰色の世界しか見た記憶がないんだ。 だけど喜びも、嬉しさも、楽しさも、悲しみも…何の感情も感じたことがないこの世界には、何も色と呼べる物が存在していない。 『お呼び出しいたします』 国立病院のベッドで1日の半分は検査と調整、残りは暇を持て余しながら過ごさなくてはならないこと。 さらに、そのつまらない生活に加えて誰1人として友達と呼べる人物がいないからでもあった。 『アレックス局長担当の患者様、局長がお呼びです』 俺は今年で16歳になるらしく、最近やっと自己主張が出来るまでに精神力が回復してきた。 というのも、俺は1年前にこの病院のこのベッドの上で目覚めたばかりなのだ。 過去の記憶は消え失せ、体の不自由を置いていかれたこの空っぽの肉体。 医者の話によると、各地で繰り返される紛争に巻き込まれ、頭を強打し気を失った後の症状、ショックによる記憶喪失らしい。 「あのヤロー、いちいち全院放送で呼びやがって……」 記憶と一緒に目の一部に損傷を受け、視覚は無事だったのが奇跡だが色を読み取る機能を失ってしまった。 でも自分がなぜ戦地のど真ん中で気を失い倒れていたのか、今となってはわかるはずもない。 「毎日暇してんなら向こうから来りゃあいいのに」 いつか記憶は戻ると言うが、1年たった今でも思い出どころか自分の名前すら思い出せない。 まるで過去を思い出す事を身体や頭が本能的に拒んでいるような、そんな感覚に襲われるようになったのは今に始まったことじゃない。 今日だって思い出そうして激しい頭痛と吐き気に邪魔され、医者が駆けつけることになってしまった。 そして、医者は決まって“無理に思い出す必要はない”と綺麗事を並べる。 そりゃあアンタは気にならないかもしれないだろうが、俺にとっては自分の大切な過去だ。 親や友人はいたのかとか、 昔は幸せな生活を送っていたのかとか、 どうして戦場で気を失っていたのだろうか、とか。 思い出したいのに記憶の糸口を探し出すことが出来ず、いつも負けてしまう。  
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