色の無い世界

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そのままサインの欄に自分の名前を書き、印鑑を押してからまた俺に返してきた。 「保護者はオレがやってやる。後はその空白に自分の名前を書き込めばいい」 嫌みか? わかってるくせにそう言ったのには何かしら意味があるだろうが、俺は一応聞いてみる事にした。 「俺、自分の名前わかんないんだけど」 すると局長はケラケラと笑って“そうだったな”なんて言いながら俺を指差した。 そこまでされると腹が立ってきてしまい危うく手が出るところだったが、俺は深いため息をついてソファーに座り直した しばらく笑ってから落ち着いた局長は、向かいの椅子に座ってこちらを見据えた。 「名前は自分で決めろ。何でも良いが、お前のセンスが疑われるから変な名前にはするなよ」 言った後に本棚から辞書やらことわざの本やら星座の本、さらには異国の言葉の本まで取り出して俺に差し出した。 どうやらコレらの資料を使って名前を決めろと言いたいらしい。 俺にそんなセンスがあるとも思えないし、ましてや一般人より世間知らずだ。 どんな名前が一般的かなんて知らない。 どの名前がかっこいいかなんてもっての他だ。 つまり、ひと言で簡潔に綺麗にまとめて表すとすれば無茶だ。 「無茶だ」 それでも局長はただ笑うだけ。 ちょっとイラっと来てから、意地になった俺は強引に辞書を掴んだ。 ページを捲って必死になる俺を横目に、クールガイはコーヒーを入れてゆったりと椅子に座り込んだ。 辞書から意味を調べ、ことわざで洒落た言葉を見つけ、星座で星の物語を知る。 名前は、肉体や精神と同じで本人しか持つことの出来ない大切な役割を果たす生き物の一部。 姓は変わることもあるかもしれないが、基本名前が変わる事はない。 一生お世話になる重要な意味を持つ。 そんな大事な事を自分で考えて、自分に付けても良いなんて。 よく考えたら素敵な話だ。  
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