緒の章

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レイプ 当時の私にはその単語を 上手く飲み込めなかった。 何となく分かるのに ただ頭に入らないまま 宙を浮いたままの言葉。 遺体に被されていた布が めくられると 水でふやけた体が現れた。 よく見ると腕や脚に痣のような 跡が残っているような気もした。 あんなに美しかった姉さんの顔も 誰か 判らないくらいに膨張していた。 レイプされた現実に向き合えず 死を選んだ姉さんの見苦しい姿を 見ても 嗚咽混じりに泣きじゃくる 母さんを見ても 言葉も無くして崩れ落ちた 父さんを見ても 私は泣けなかった。 泣けなかった。
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