主文

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 登校時。  プラットフォームに立って、電車を待っているとき、あとちょっと前に進めば、電車に轢かれて死ねるのに、としみじみ思った。こんな穏やかな朝に、自殺者が出るとは誰も思わないだろう。だからこそ、死ぬ意味はあると思った。  しかし、僕は死ななかった。理由は簡単、こんな所で轢死事故があれば、通勤通学中の大多数の人々に迷惑がかかるからだ。それだけ。  今までの歴史を振り返ってみて、もしあの時死んでいたら、と思うことがよくある。  それだけ自殺衝動に駆られてきたということだ。要するに、過去の一地点において、僕の人生は終わっているも同然で、今過ぎゆく一秒一秒に、もはや価値なんて無いということだ。  電車に乗り込み席に着く。周囲には、大体いつもと同じ顔。みんないつも同じような席に座っている。――馬鹿らしい。僕はふとそう思った。何故かはよく分からない。もしかしたら、「習慣」の名の元に変わり映えのしないことを繰り返している人々への嘲笑だろうか。辺りには空いた席が沢山あったが、僕はあえて立って吊り輪を掴んだ。  等間隔に並んでいる、量産的な吊り輪を凝視していると、だんだん気分が悪くなってきた。たかが電車の吊り輪なのに、それがあたかも映画に出てくるような拷問マシンか、あるいはカルト的な儀式の道具のように思えてきて、気持ち悪かったが、スリリングで目が離せなくなっていた。――くだらない。  結局僕は、自分が好きになりかけた物とも、決別した。
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