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「姉を…姉を探して欲しいんです。」
安紗美が言った言葉で、にぎやかな部屋が静まった。
「安紗美さんのお姉さんって…確か…」
亜樹子が翔太郎を見ると、浮かない顔をした。
「睦月恵理香。海難事故で無くなったって聞いたんだが。」
「姉は!」と安紗美が声を張り上げた後、一度俯いた。
「姉は遺体が見つかって無いんです。」
「……説明してくれるか?」
翔太郎が、そう言うと安紗美は頷いた。
事の発端は、一週間前。
ラジオの公開生放送の後、安紗美はファンに囲まれながら次の仕事へ向かう為に車に向かって階段を降りていた。
姉が居なくなった悲しみを、表に出さないようになって復帰した安紗美は、それをまでを取り戻すかのような人気だった。
そんな中、囲まれたファンの先に見覚えがある顔があった。
(お姉ちゃん?!)
安紗美は、ファンを押しのけて恵理香を探したが、いつの間にか姿は消していた。
「その日以来、私は度々、姉を見るようになったんです。」
「けど、接触しようとするといなくなる…か。」
安紗美は頷いた。翔太郎が考え込む姿を見て、亜樹子は静かに立ち上がると、
「パーティーはお預けね。」
と小さく言った。
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