1.

3/3
前へ
/3ページ
次へ
四方を人に囲まれて落ち着かない気分のまま改札を抜け目的のホームを目指す。気を抜けば全く違う場所へ流されそうになる。幸い、俺はそれなりの身長があるから頭上の案内板を見て進めば迷うことはない。さっき券売機前で見かけた小学生は俺の腰ほどしか無かったがどうやって自分が行くべきホームを確認しているのだろうか。他人の歩くリズムにあわせてぼんやりと進んでいたら向かいから歩いてきた女性にもろにぶつかってしまった。 「ごめんなさいね」 「え、あ…」 その女性は良い香りのする長い髪をなびかせて、ろくにこっちも見ずに歩き去ってしまった。彼女は自分が硬貨を落としたことに気づいていないらしい。俺の足元に落ちているそれを何気なく拾い上げた。 「100円、微妙だな」 追いかけて渡そうかとも考えたけれど押し寄せる人の波を掻き分けてまであの女性を探す気力はなかった。ちょっと悪い気もしたけど100円をポッケに突っ込むと俺はまた目的のホームを目指した。今度は考え事なんかせずに。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加