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ある日、
牧場の一人息子が、牛にむかって憂鬱な顔をしてつぶやいた。
『なぁ、みるくよぉ。俺って、なんで、彼女ができねぇんだろ』
小さい頃から世話をしてきてすっかり情の移ったこの雌牛は、少年にとって唯一の異性の友達だった。 なんと悲惨なことよ。 齢十七にして女の子と付き合ったことはおろか、
手をつないだこともないのだ。そのうえ友人が、女は女でも『牛』なのだ。
そんな少年を見て人は言う、曰く、不憫である、と。
まぁ、そんなかんじに、この少年・ジローの朝が始まる。
my牛・みるくに餌を与え終えると、まもなく、男友達のタケルが自慢のバイクで迎えにきた。
今日も公道をバイクで走りまわるのだ。少年達には、それしかやることがなかった。
「んじゃ、行ってくるな」
雌牛みるくは、変わらぬ静かな瞳でジローを見送った。
みるくは、ジローを追うように牧場を公道沿いに柵がある所まで走った。
ジローは振り向きもせずに羽織ったジャンパーを風に揺らして去っていった。
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