カブトムシ

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目が覚めると 知らない場所で横になっていた。 そっか あのとき気失ったんや。 最悪やアタシ… 最後の最後で思いっ切り章大に迷惑かけてしもた ゴメンな章大… 最後までこんなアタシで… そう思っていると涙が出てきた。 行かなアカン。 最後ぐらいちゃんと章大を見送らな… アタシは重い体を無理矢理起こして部屋の外に出た。 どうやら今まで式場の控え室にいたみたいやった。 式場どこやろ…? アタシは少しウロウロしながら式場を探した。 「篠原さん…?」 突然名前を呼ばれ振り返った。 そこには章大が入院してた病院の看護師さんがいた。 「この度はご愁傷様です。私どもがもっと的確な治療を行なっていれば…」 そんなん言うたかてもう章大は戻って来ーへんやろ そんな悪態をつきながらも軽く頭を下げた。 「もう休まれなくて大丈夫ですか?」 『はい。お騒がせしてすみません。』 「よかったです。 それであの…」 看護師さんがカバンから何かを出した。 「これが安田さんの病室に残っていて…」 看護師さんが手にしているのは、小さなボイスレコーダーのようなものだった。 『章大の病室に…?』 「はい。お渡しした方がいいかと思いまして。」 章大が残したものだと思うと、そのボイスレコーダーが急に愛しく思えた。 『わざわざありがとうございます。』 アタシは今度は深々と頭をさげ、ボイスレコーダーを受け取った。 「式場は右に曲がったところの奥ですが… 安田さんはもう…」 『わかりました。ありがとうございます。』 アタシは看護師さんの言葉を遮った。 何が言いたいかは大体予想はついてたから。
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