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「何って、莉子ちゃんと藤村先生が一緒に歩いてるとこ」
如何にも面倒臭そうに振り返る千秋に、嬉しそうに目を細め口元に手を当ててみせる佳美。
その様子から、彼女の掌に隠された口元にはにんまりとした笑みが浮かんでいるのだろうと容易に想像がつく。
だが、千秋にはそんな面白くもない話題にいちいち付き合ってやるような義理も無い。
「……別に一緒にくらい歩くだろ」
そうボソリと呟いた後、再び彼女に背を向けると、無言のまま資料の整理を再開した。
しかし、それで佳美が簡単に引き下がる訳もなく、今度は拗ねたように頬を膨らませて、千秋の作業をしている机の前に回り込んでくる。
「もう! そうじゃなくて! あの雰囲気は絶対に付き合ってるって! そんな感じだったもん。藤村先生てば、莉子ちゃん狙いだったんだねぇ……」
「あぁ……」
――……まぁ、そうだろうな――
呟いた千秋の脳裏に、目の前にある佳美の顔を介して思い出したくもない光景が蘇った。
と、手元にあるファイルの一冊に手を伸ばし適当にページを開くと、佳美は中身に目を通す振りをしながら横目で千秋を見やる。
わざとらしい口調で言っては見るものの、返ってくる反応はいまいちで、彼女は面白くなさそうに唇を尖らせた。
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