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「……またその話かよ」
「またとは何よ。だいたいね、いつまでも彼氏持ちの女の事ばっか見てんじゃないわよ。それに、何やらかしたか知らないけど、莉子ちゃんに思いっきり避けられてるじゃない……あーあ、それなのに諦めないとか、女々しいったらありゃしない」
思わず口を吐いて出る言葉に、それまで頬を支えていた手で机を叩く音に重なって、佳美の呆れた口調が返ってくる。
「……うっせ」
思いがけない机の悲鳴に一瞬肩を揺らした千秋だったが、バツが悪そうに投げだしたファイルに再び手を伸ばすと、それで顔を隠し小さく呟いた。
しかし、そんな即席の仮面も直ぐ様伸びてきた佳美の手によっていとも簡単に引き剥がされてしまう。
「私なら、千秋の事慰めてあげれるけど?」
指先で引っ掻けられたファイルの向こう側から覗く佳美の瞳には、その言葉を証明するように強い灯りが点されていた。
「ね。どうする……?」
「……だから、そう言うのやめろって……」
敢えて自分を見ない振りをしようとする千秋に言って椅子から腰を浮かし、千秋の視線に合うように身を屈めると、その唇に顔を寄せる佳美。
と、その時。
突然二人の背後でバサリと本の落ちるような音がし、振り返るとそこには慌てふためく莉子の姿があった。
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