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「あの! ごめんなさい! 別に、ね。邪魔しようとしたとか、覗こうとしたとか、そんなじゃないのよ! 本当にごめんね! あの……えっと……じゃあ、ごゆっくり!」
「あっ! ちょっと待っ……」
椅子から立ち上がる千秋の声も虚しく、それだけ言って莉子は二人の前から逃げていく。
「……最悪だ」
「あーあ。見られちゃった」
その背中を見送りながら力無く呟く千秋の顔には悲壮の色。
からかうように言って、同じく閉めきられたばかりのドアを見やる佳美の顔には、却って好都合とばかりに彼とは真逆の笑顔が浮かぶ。
再び椅子に腰を落ち着けた佳美はその笑顔を頬杖に乗せ、立ち尽くしたままの千秋を見上げた。
「何が最悪なのよ。良いじゃない。これで本当に公認の仲になった訳だし」
「ふざけんな。良い訳あるか」
と、視線を落とした先には自分の腕をきつく掴む佳美の手があり、彼女の言い様に一瞬ムッとした表情を見せ、莉子の後を追おうとする千秋の邪魔をする。
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