目撃

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* * * ――今の、向井さんだったよね? え……してた? キス、してたよね……―― 生徒会室から逃げるようにして飛び出してきた莉子。 本来ならば、あの場所に置いてくるはずだった資料をシワが寄る程強く胸に抱き抱え、目的も無く廊下をうろうろしていた。 早鐘を打つように騒ぎ立てる心臓の音は、早足で歩いているせいなのか、それとも見てはいけないものを見てしまったからなのか。 答えは恐らく後者だろう。 ――何よ……付き合ってないとか言って、ホントは付き合ってるんじゃない。ちゃっかりそう言う事してるし。しかもあんな場所で……―― 莉子が見た角度からは二人がそうしているように見えてしまい、彼女の中で驚きと憤慨の感情がごちゃ混ぜになっていく。 「……って、人の事言えないか……」 ふと足を止め、同じ場所で啓太としていた事を思い出し、莉子は一人顔を赤らめる。 しかし、頭の中に浮かんでいた啓太の顔はあっという間に千秋の顔にすり替えられ、それと同時に疑問と猜疑心が渦を巻き始めた。
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