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――でも、それなら何であんな告白……やっぱりからかわれただけ? なんだ、最低……――
「あ」
と、彼女は今更になって肝心な事を思い出し、思わず声を漏らした。
「倉田君に返事……まだちゃんとしてないや」
あれからどうしても気まずさが先に立ち、莉子は千秋を必然的に避けるようになっていた。
何かしら都合の悪い事があると、直ぐに目の前に置かれた状況から逃げ出してしまう。
それは昔から莉子の悪い所の一つだったが、このままではいけないと言う思いが無い訳ではなかった。
しかし、自分からはなかなか切り出す事がでず、おいそれと二人きりになれるチャンスもない。
千秋から話しかけてこようとする事もあったが、一体何処から見ているのか、その度見計らったように啓太か佳美が間に割って入ってくる。
そんなこんなの繰り返しで、結局千秋に明確な返事を返せないまま、うやむやの内に始まってしまった啓太との関係。
中途半端な自分の行動に莉子の胸の奥は小さな悲鳴を上げ、チクリとした痛みが後から着いて来た。
「最低なのは私の方だ」
ポツリと呟いたそれは、千秋の告白から逃げ回っていた自分に対してのバツの悪さ。
そして、もうひとつ。
彼女も気付いていない、また別の意味合いが込められているものだった。
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