目撃

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「うん? それは、莉子ちゃんが私の質問に答えてからね」 言いながら、唇に一本だけ立てた人差し指を当てがい片目を瞑って見せる佳美に、莉子の質問に簡単に答えてくれる気配は微塵も感じられなかった。 その代わりなのか。 わざと身を屈めると、佳美はやや下から上目遣いに莉子の顔を見上げ、辺りを伺うようにわざとらしいくらいに声を潜めてみせる。 「ね、藤村先生とどうなってるの? 私、この前先生達が一緒に歩いてるの見ちゃったんだけど」 「あっ! ……そう、なの?」 特にこそこそする訳でも無く休日に啓太と二人並んで歩けば、いずれ誰かにはその姿を見られるかもしれない。 そんな事は百も承知の上だったが、その第一号が佳美だった事にドキリとする感覚は莉子にとって何処かこそばゆいものがあった。 「ね。付き合ってるんでしょ?」 「う……ん。まぁね」 やはりオブラートに包む事もせず直に投げられる再度の問いかけに、莉子も否定する事を忘れつい首を縦に振ってしまう。 しかし、お世辞にも気乗りした様には聞こえないその返答に、佳美の眉間には二人の関係を訝しんでいるような浅いシワが寄った。
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