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俺はクラクションの音で目を覚ました。
サイドミラーを覗くと後ろに仲間のトラックが来ていた。
(暑いな。)
俺は窓を開けると後ろのトラックに手を振った。
春の日差しのせいか、ぐっしょりと汗を書いている。
(また夢でうなされた気がするけど…)
俺はどんな夢なのか思い出せなかった。
(まぁ、いいか。それよりめ仕事だ。)
俺は車のエンジンをかけた。
(どうして今時、マニュアル車なんて乗ってるんだよ。)
俺は今日何度目になるかの悪態をついた。
一応男だし、「オートマ限定」免許は格好悪いので、マニュアル車にも乗ったが、それも免許を取った時にだけ。もう5年近く乗っていないマニュアル車に、俺は朝から既に数回エンストを起こしていた。
(奴に借りるんじゃなく、レンタカーにすれば良かった。)
初めてのデートに、お金を節約しようと友達から車を借りた事を悔やんだ。
(せめて、彼女の前ではエンストしないようにしないと。)
その思いがいっそう焦りを呼んでいるなんて、気付く余裕はなかった。
(良かった、彼女の家が郊外で。)
何度かエンストした時、たまたま周りに車はなく、俺はそれほど慌てる事がなかった事を振り返った。
(後はこの坂を過ぎたら彼女の家だ。)
俺は初デートに思いを馳せた。
今日のドライブコースは友達にリサーチ済み、ナビにも設定済みだった。
(決めるぞぉっ。)
その思いを邪魔する様に目の前の信号が赤に変わった。
俺は車を止めるとサイドブレーキを引いた。
(坂道発進、懐かしいなぁ。)
信号が青に変わり、俺はアクセルをゆっくり踏みながらサイドブレーキを…
突然サイドブレーキが音を立てて切れたかの様に効かなくなった。
俺は慌ててブレーキペダルを踏み込んだが、ブレーキペダルも虚しく宙を切る。
車は惰性に惰性を加えて徐々にスピードをあげながら下がって行く。
俺はどうしていいのかわからずにハンドルを握り、後ろを見た。
そこには既に民家の塀が迫って………
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