「睡魔」

6/8
前へ
/68ページ
次へ
 俺はクラクションの音で目を覚ました。 サイドミラーを覗くと後ろに仲間のトラックが来ていた。 (暑いな。) 俺は窓を開けると後ろのトラックに手を振った。 春の日差しのせいか、ぐっしょりと汗を書いている。 (また夢でうなされた気がするけど…) 俺はどんな夢なのか思い出せなかった。 (まぁ、いいか。それよりめ仕事だ。) 俺は車のエンジンをかけた。 (どうして今時、マニュアル車なんて乗ってるんだよ。) 俺は今日何度目になるかの悪態をついた。 一応男だし、「オートマ限定」免許は格好悪いので、マニュアル車にも乗ったが、それも免許を取った時にだけ。もう5年近く乗っていないマニュアル車に、俺は朝から既に数回エンストを起こしていた。 (奴に借りるんじゃなく、レンタカーにすれば良かった。) 初めてのデートに、お金を節約しようと友達から車を借りた事を悔やんだ。 (せめて、彼女の前ではエンストしないようにしないと。) その思いがいっそう焦りを呼んでいるなんて、気付く余裕はなかった。 (良かった、彼女の家が郊外で。) 何度かエンストした時、たまたま周りに車はなく、俺はそれほど慌てる事がなかった事を振り返った。 (後はこの坂を過ぎたら彼女の家だ。) 俺は初デートに思いを馳せた。 今日のドライブコースは友達にリサーチ済み、ナビにも設定済みだった。 (決めるぞぉっ。) その思いを邪魔する様に目の前の信号が赤に変わった。 俺は車を止めるとサイドブレーキを引いた。 (坂道発進、懐かしいなぁ。) 信号が青に変わり、俺はアクセルをゆっくり踏みながらサイドブレーキを… 突然サイドブレーキが音を立てて切れたかの様に効かなくなった。 俺は慌ててブレーキペダルを踏み込んだが、ブレーキペダルも虚しく宙を切る。 車は惰性に惰性を加えて徐々にスピードをあげながら下がって行く。 俺はどうしていいのかわからずにハンドルを握り、後ろを見た。 そこには既に民家の塀が迫って………
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加