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‘ゴンッ’
俺は衝撃で目を覚ました。
(積み込み始まったんだな。)
ミラーで確認すると、土砂が機械で積み込まれていく。
(それにしても、今日はやたらと眠いなぁ。春のせいか?)
空は青々としていて、窓から吹き込む風が暖かかった。
‘プーッ’
積み込み完了の合図に、俺はエンジンをかけた。
(居眠り運転に気を付けないとな。)
俺は窓を全開にした。エアコンなんてもったいなくて。
平日だと言うのに、乗客は一杯だった。
(食べ放題と言うだけで、主婦がこれだけ集まるんだから、一生懸命働いてる旦那も大変だ。)
バスガイドの谷崎の話など誰もまともに聞いていないのは、ミラーで確認するまでもなかった。
(偉いよなぁ。)
それでも笑顔を絶やさずに話を進める谷崎を見てつくづく思った。
(その点俺はこうして運転していればいいんだからな。)
「この山を下り切りますと、皆さんお待ちかねの御昼食になります。」
さすがにこの発言にはバス内も反応を示した。
(現金なもんだ。)
俺はゆっくりとコーナーを曲がった。ここから先は長い下り坂。
俺はエンジンブレーキを十分に効かせ、補助的にブレーキを踏んだ。
(あれっ?)
ブレーキペダルの感触が違う事に気付き、俺は何度かペダルを踏んだ。
(ブレーキが効かない?!)
「谷崎、お客様にシートベルトの着用を。お前も座ってシートベルトをしろ。」
俺の表情に異変を察知した谷崎は、相変わらず笑顔のまま、
「これから急なカーブが続きますので、皆様今一度シートベルトの着用をご確認下さい。私も安全の為、これから先は座らせて頂きます。」
そう言うと、座り、俺の顔を伺った。
俺は出来るだけ衝撃が出ない様にギアをローまで落とした。
残念ながらこの先は平坦な道すらなく、ずっと下り…
バスはギアに関係なく速度をあげ、回転数の上がったエンジンが唸りをあげた。
異常に気付いた乗客が騒ぎ始めた。
「席に座って、シートベルトをして下さいっ!」
俺は思わずどなった。
車内が異様な静けさに包まれた。
(ガードレールにぶつけて止めるしかない。)
俺はハザードランプを点滅させると覚悟を決めた。
(止まってくれっ!)
衝撃と音に、車内は悲鳴に包まれた。
ガードレールの先はまっ逆さま…
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