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「どこに行くんだ……」
振り向くと不機嫌そうにこちらを見ている京極堂がいた。
「どこって……家に帰るんだよ」
私は当たり前のように言う。
だが、確かに当たり前の事だ。
私の家はここではない。
ちゃんと家があり、家内だっている。
「そうか。なら、もうここには来るなよ」
「…え?」
京極堂の言っている意味が分からなかった。
「聞こえなかったか?もう来るなと言ったんだ」
聞こえている……。
だが分かりたくない……。
ここに来てはいけない理由などあるはずがない……。
「………な、何故だ!?」
思わず大きな声を出してしまった。
馴れない大声に、声が裏返る。
それでも京極堂は顔色一つ変えない。
「帰るのだろう?さっさと行ったらどうだ」
片足だけ入れた靴からまた足を出し、京極堂の傍へ寄る。
「どうした?」
見透かしている癖に、そんな事を言う。
「………………まだ、帰らない」
そう言うと京極堂は満足そうに微笑を浮かべ、私を抱き寄せた。
私は彼の言葉に逆らえない……。
私は彼の言葉に抗えない……。
私は彼の言葉に縛られ続ける……。
――あぁ、今日も帰れない……
→end
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