あるバレンタインのお話

その日は？

「ひど～い……」

「ひどくない。自業自得。愛のムチ」

しゅんとする姉さんに罪悪感などは感じない。まったくもって感じない。

「…………」

……いや、そんな捨てられた子犬みたいな目をされても……。

ここで甘やかしたらダメだ！　心を鬼にしなければ！！

「ほら、こっちなら応じてあげるから」

そう言って両手を広げる。

え？　なんのポーズかって？　そりゃもちろん

「うんっ！！」

嬉しそうな顔で抱きついてくる姉さんを受け止めるポーズに決まっているだろう。
発言と行動が合ってない？俺の〈心を鬼〉発言は方便みたいなものなんだよ。

それに……姉さんの血の繋がった方の父親はこうやって見送った後事故にあって亡くなっているらしい。見送りや出迎えのとき盛大に愛情表現するのも、おそらくはそこに起因している。

「……ほら、そろそろ」

少し沈みかけた心を浮かすように、姉さんの背中をぽんぽんとたたく。

というか、そろそろ離れてくれないと耳にかかる吐息や、心地いい体温、背中に回された手、くすぐったい髪の毛が相まっていろんな意味でヤバイ。