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「いや、ケンカじゃないんだけど……先に行って、って」
「ふ~ん? じゃあ、あの電柱の影に隠れてこちらを伺っている可愛らしいお馬鹿さんの存在には気づかない振りしておいた方がいいのか?」
「そう言いながら指差さないでよ。僕も気づいてて知らない振りしてるんだから」
俺が指差した瞬間に電柱から除いていた頭が慌てて引っ込む。
本人は上手く隠れたつもりなんだろうが、白いコートが完全にはみ出して存在を主張しまくっている。
まあ、伊波さんはこんな人なのだ。
「これは一体なんの遊びなんだ?」
歩き出しながら、傍らの彰人に尋ねる。もちろん背後の電柱から伊波さんが出てくるのを視界の端に捉えながら。
「いや、まあ今日は仕方ないじゃない。もみじも女の子なんだし。学校で渡したいんじゃないかな、きっと」
ははっ、と彰人は軽く笑う。
言葉とは裏腹にその顔はとても嬉しそうだが……はて?今日は何の日だったかな?
「え? ユキもしかして忘れてるの?」
う~ん、と考え込む俺にうそでしょ? と言う顔で彰人が尋ねる。
どうやら相当忘れにくいようなことらしい。
「すまん。今日何の日だっけ?」
「うわ、ユキにしては珍しいね。僕もユキも結構な数貰うんだから絶対忘れないと思うんだけど……」
あ、なんかもう嫌な予感しかしないし、予想ついた。
そんな俺を無視するように彰人は言った。
「今日はバレンタインデーじゃない」
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